一本の木

2010年08月24日

「この~木なんの木、気になる木~」って、木が一本立っているのを見ると、つい口ずさんでしまう人は結構多いみたいです。
そのこととは特に関係ないのですが、一本の木を主題にしたステンドグラスを制作、先週設置してきました。

設置先は、半年ほど前に白樺とななかまどの木を主題にした作品を納めたお宅ですが、3月14日のブログ「やる気だけでは・・・」に記述しています。
その作品を大変喜んでいただいて、もう一箇所、階段の踊り場にもという話になりました。

デザインの相談をしたときに、施主さん(ご夫婦ですが担当は主にご婦人方でした)が気に入っているという写真をいくつか見せていただき、その中に、広い草原に 一本の木が立っている写真がありまして、僕はそれを主題にしてデザインすることに決めました。

元になった写真からは、すがすがしさや繊細さや広々としたイメージが伝わってきますが、それをそのままステンドグラスに表現できるわけではありません。
完成したステンドグラスには、太く黒々とした鉛の線がどうしても入ってしまうため、その線の強さに”負けない”、というより線を”生かした”デザインを考えなければいけないのです。
それは結果的に先の写真からはかけ離れたイメージのものになりかねないのですが、そこは工夫次第です。

色々と机の上で試行錯誤を繰り返した結果、「一本の木」だけで表現することを諦めました。
どうやっても写真との違いばかりが際立ってしまい、施主さんの気に入られる作品になりそうもないと判断したからです。
で、思いついたのは、ステンドグラス特有の魅力を付け加えて、トータル的に質の高い作品に仕上げることで納得していただこうということです。

ステンドグラス 一本の木

 

ガラス面がふたつに分かれていることを利用して、装飾的な縁飾りを付けました。
こちらに黒い線がたくさん入っているために、内面がより広くシンプルに見えると思います。
ステンドグラス エッチング 鳥
 

 

 

 

 

 

また繊細さが感じられるように、鳥や葉模様など、エッチングによる細かい図柄をところどころに入れました。

 

 

 

 

さて、取り付け作業をしている時に施主さんが見に来られ、「想像してた以上に綺麗ねえ~素晴らしい!」と嬉しい言葉をかけていただきましたが、さらに「サインをもっと大きく描けばいいのに」というご指摘もいただきました。
確かに作品の大きさからすると、少々控えめなサインかもしれません。
しかし、このくらいでよいのだ、と思っています。
僕が控えめな人間だから・・・というわけではなくて、ステンドグラスというのは自分ひとりで作り上げるものではないからです。

施主さんの好みを知り、意見をうかがい、様々な相談の中でデザインを決めていくものですから、言わば共作と言ってもよいものだと思います。
作品の命は着想とイマジネーションですが、この部分は施主さんとヒントをくれる写真や図柄が受け持っており、僕の仕事はそれをステンドグラスのデザインに仕上げ、実際に制作することです。
あまり大きなサインを入れると、まるで自分ひとりでやったと主張しているような気がするもんで、まあこのくらいの大きさだろうと。

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熱き思いは朽ちずー後編ー

2010年08月03日

楽をしたいという気持ちは誰にでもあるでしょう。
それに金銭的欲求が加わると、”ここをこういうふうにしておくと楽に作れるぞ・・”という悪魔のささやきが聞こえてきます。
楽をすれば早くできて、”儲かる”からです。
そのかわりデザインが犠牲になります。

”ステンドグラスのデザインの良し悪しなんて、誰にわかる?”
”苦労して作っても誰も認めてくれないなら、やるだけ無駄だな・・・”
なんて声も聞こえてきそうですが、そんな気持ちで作ったものが人に感動を与えられるわけがありません。

小樽 和光荘 ステンドグラス 小川三知

 

和光荘のステンドグラスがすべて小川三知のものかどうかはわかりませんが、最初に玄関ホールで見たステンドグラスにも作者の心が宿っています。                         

省略しても構わないような小さなピース、あってもなくてもステンドグラスの効果にはほとんど違いがないでしょう。
ほんの僅かの出っ張り、これがなければ材料も節約できるし、とても楽に作れたはずです。
 
 
 

 

 

 

 

 

ステンドグラスの制作には様々な制約があります。
ひとつひとつのガラス片は、当然のことながらカットできる大きさと形でなければなりません。
ガラス片をつなぐ鉛桟は、その形や数や位置が作品全体の強度を決定します。

ステンドグラス 小川三知

例えばこの鳥の形にしても、自由に描いてよいわけではなく、上記の点を考慮しながら描くのです。

しかし、鉛桟の位置を1㎜横にずらすと絵の形は良くなるが強度が落ちる、どうしようか?という場合が多々あります。
自分の頭の中で真剣なせめぎ合いが始まります。
難しい作品のときには、頭がヒートアップして汗が吹き出すほどです。

 

ステンドグラス 小川三知

三知の鳥の形には1㎜を問題にして葛藤した跡が見えます。
おそらく、実際にステンドグラスを制作する人間でなければ感知できない苦労の跡です。
でも、そこに降り注いだ情熱を感ずることができる人は多いのではないでしょうか。

 

 
 
 
古いステンドグラスがすべて良いわけではありません。
楽をしようとした形跡が見て取れるものも結構多いのです。
公共建築に取り付けられて、広く知られている作品の中にもそういうものはあります。

立派な邸宅とはいえ、今以上に遠かった北海道の、見る人が限られている個人邸の、玄関やサンルームや浴室を美しく飾ることを夢見た、その熱き思いは朽ちることなく生き続けていました。

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