光と陰

2010年03月22日

雀のチュンチュンさえずる声で、もうすぐ朝が来ることを知ります。
それから恐ろしいほどに長い時間が過ぎて、家族の誰かが静かに立ち上がり、そっとカーテンを開けます。
何故か僕は起きていることを知られたくなくて、天井の羽目板を凝視したまま布団の中でじっとしています。
やがて目の前に最初の朝日が柔らかく射し込み、僕は太陽の光が細かな粒でできていることを発見しました。

これは僕が5歳か6歳ころの記憶です。
今でもはっきりと思い描くことができる最初の”光”の記憶です。
もちろん実際に光の粒が見えたわけはなく、ただの印象にすぎないのですが、それから約10年後に、その印象が見当違いのものではなかったことを知りました。
つまり、光は光子という粒でできているということ、さらにそればかりでなく万物の存在に関わることや、”時間”にも関係しているらしいということを知りました。

”光陰矢のごとし”と言いますね。
なんとなく英語の直訳っぽいですが、中国から日本に伝わった古い格言です。
”光”は太陽、”陰”は月、月日が巡るのは矢が飛ぶように早いという意味で、「時間を大切にしろ」という戒めの意味が込められているようです。

ステンドグラス 光と陰 時間 光陰矢のごとし”太陽と月”を題材にして、という要望による注文作品が完成しました。
これは同時に”時間”を題材にするということでもあると、僕は勝手に解釈しました。

作品を設置する窓は北東向き、朝日が入ります。

光を”粒”として見せることはできないだろうか?

光子をまっすぐ透すガラスと、波のように揺らして透すガラスと、互いを干渉させることで粒子が生まれるような気がしました。

写真ではわかりませんが、性質の違うガラスを組み合わせています。

配色は7色の指定があり、虹の色、光のスペクトルです。

 

ブログを書き始めてから、ちょうど今日まで2年の”月日”が経っています。
何のために書くか?ということに関しては4回目のブログに書きました。

http://st-glass.jp/blog/archives/7

そこにも書かれているように、僕には自分の日記として書くという意識は無く、ステンドグラスに関心を持った人に何か価値あるものを伝えたいという思いを抱きながら書き続けてきました。
今回を含めて2年間で76本のつたない文章を載せてきましたが、当初の目的を少しは果たしているでしょうか?

2年の月日の間に多くのものを失いました。
命や記憶や様々な絆を・・・。
しかし生まれたものもあります。
新しい命や経験と貴重な絆、そして新しい作品。

”光陰矢のごとし”、これからの月日はより高速の矢が飛ぶと覚悟しなければなりません。

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境目に立つ

2010年03月20日

今週は仕事で東京へ出張、神楽坂あたりを俳諧しました。
最寄の駅はJR飯田橋駅ですが、駅ビルのセントラルプラザには大きなステンドグラスがあります。

ステンドグラス 飯田橋区界ホールフランスから帰国したばかりの僕が初めて手がけた大型のステンドグラスでした。
但しデザインは造形会社のデザイナーで、制作受注は先輩の今野満利子氏の工房でしたから、僕は制作を手伝っただけなのですが。
それでもやはり僕にとっては思い出深い作品です。

ほぼ30年前のその頃、僕は色々な意味で境目に立っていました。
体質の違うふたつの教室のどちらに重きを置くべきか?
他工房の手伝いを続けるか、自分の工房を持つべきか?
東京に住むか北海道に戻るか?
いやそもそもステンドグラスを仕事にするか否か?
女性問題もちょっとあったかな?

巨大なステンドグラスを見上げながら、甘く苦く熱いものがこみ上げてくる様な気がしました。

 

飯田橋セントラルプラザ 区界ホールステンドグラスが取り付けられた場所は、当時「区界(くざかい)ホール」と呼ばれていましたが、現在もまだその名称は残っているのでしょうか。

階段下の床に埋め込まれたプレートはそのまま残されていました。

ここから左が千代田区、右が新宿区で、ちょうどふたつの区の境目に当たるという意味です。

 

 

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やる気だけでは・・・

2010年03月14日

ブログのタイトルに「やる気・・・」を使い始めてから、これで4回目。
最初から予定していたわけではなくて、自分のやる気のなさを意識するあまり、「やる気」という言葉から抜け出せなくなっていたみたいです。
内容も一貫してなくて、何が言いたいの?って感じ。

一ヶ月くらいの間、ろくに仕事もせずに毎日ぶらぶらしていたような気がしていましたが、実際はちゃんと仕事をしていたようで安心しました。
あまり記憶がなくて他人事のようですが。

同時に4件の仕事を進めていましたが、最初のひとつはブログでも紹介しながら一昨日取り付けを終わっています。
ご覧の通り。
適度に力が抜けて、ゆるい感じが我ながらいいと思います。

ステンドグラス 白樺 ナナカマド思い返してみると、もしかして失敗したかもと思うような作品は、大抵気合が入りすぎて大袈裟になったり、手をかけ過ぎてしまったり、どうも「やる気」が暴走して独りよがりになったケースばかりです。
絶好調のボクシング選手が、逆にKOされてしまうことがあるのと似てますね。

やる気だけではどうにもならない部分に、これまで僕の知らなかった宝物が隠されているような気がします。

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やる気があれば仕事は終わる

2010年03月11日

さていよいよ実際の腐食作業に入ります。
前日の夕食は高カロリー食(すき焼きでした)にして、工房に泊まり、朝の7時にコークスストーブに点火します。
腐食室のある1階が暖まるまで2時間ほどかかります。その間2階で朝食をとり、1時間ほど別の仕事をしてから、いざ防寒服を着込んで階下へ。

知らない人は大袈裟なと思うでしょうが、これほど気合を入れてからでなければ取り掛かれないほど過酷な労働が待っているのです。
何がそれほど大変かというと、まず寒さ。できれば冬はエッチングの腐食作業はしたくないのですが、そんなことは言ってられません。

コークスストーブは熱効率が非常に良いのですが、何せ強力な換気扇で、有毒ガスと共に暖気をどんどん外に吸い出してしまうものですから、ストーブが真っ赤になるほど炊いても足りず、他に石油ストーブを背中に、電気ストーブを側面にあてています。
それでも耐強酸用ゴム手袋の中の手は凍えて痛くなり、しまいには感覚がなくなります。時にはバットの中の水が凍り始めて、それをパリパリ割りながら作業をすることもあります。
作業はほとんど立ちっぱなし、除雪で酷使した腰がずきずきと疼きます。

エッチングは時間差でグラデーションを出していくので、常に時計を見ながら分単位、秒単位の計算をします。やりすぎてしまったらそれでおしまい、元に戻すことはできません。緊張と思考の継続を強いられます。

使用するガラスは職人の手作りで、厚さが均等ではありません。その変化を読み取りながら、作業計画に途中で修整を加えていきます。この判断を誤ると即失敗につながり、作業は3日前に戻ってガラスカットからやり直すことになります。時間の損失は大きいですが、実際に数千円~数万円の余分な出費にもなります。

こうした作業をできるだけ中断することなく、最後まで一気にやり通す必要があります。細かな注意点や計算などはメモをする時間が無いので記憶するしかないのですが、その記憶が失われる前に作業を進めなければならないわけで、最近は脳細胞が刻々と消滅しているらしく、中断は危険!次の日に続きをやるなんてもってのほか。

ステンドグラス 白樺 ナナカマドで結局、この日腐食作業が終わったのは朝の4時でした。
予定より1時間オーバーです。

最近の睡眠障害のおかげで、途中で眠くなることがなかったのは不幸中の幸いでした。

 

そのあと、冷え切った体をアルコールで温めてから就寝。
「頼むから朝早くに起こしてくれるな」とテレパシーで家族に願いつつ・・・。

 

翌日、組み立て終わった作品をライトテーブルに乗せてチェック。

白樺林の遠近感は出ているか? 
~OK!
緑ガラスのぼかしはうまくいったか? 
~OK!

 

ステンドグラス ナナカマドナナカマドの赤い実を可憐に描けたか? 
~多分OK!
etc・・・。

ステンドグラス アカゲラ 白樺アカゲラを一羽、サービスで幹にとまらせました。
喜んでくれるかな?

明日、取り付けです。

ー続くー

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やる気がないと仕事は進まぬ

2010年03月09日

ステンドグラス 白樺 ななかまどすっかり春めいた北海道でしたが、また雪が積もって冬に逆戻り。
工房の向かいの空き地の白樺林が雪に映えます。

ハルが逝って以来、空き地に入るのは初めてのことです。
遠くにハルと仲良しだった犬が散歩している姿が見え隠れし、ハルが目の敵にして追い掛け回していたカラスたちが、高い枝の先で退屈そうにじっとしています。

だらだらしてる場合じゃないな、とは思うのですが・・・。
 
 

 

 

 

現在進めている仕事は、施主の希望で白樺とななかまどの木を主題にしています。
これはやはりエッチングで表現したいと思って、全体の4分の3をエッチングガラスが占めるというデザインをしてしまいました。しかもその半分は 緑色のガラス、色の層が厚くて腐食作業にかなりの時間を要します。
ああ、なんでこんなデザイン考えついたんだろう~と嘆きつつも、とにかく前に進むしかありません。

ステンドグラス 白樺 ななかまどエッチングの作業は、シートカットまでは比較的楽に過ごせます。
暖かい部屋でテレビを見ながら、腐食作業の手順をシミュレートしつつ、ひたすらにカッターナイフを走らせる時間は、結構快適と言ってもよいほどです。

知らないうちにというわけにはいきませんでしたが、シートカットがすべて終わって腐食の準備が整いました。

このあと、真冬の腐食作業は大変です。
やる気がなくてできる作業ではなく、テレビを見ながらなんてリラックスできる工程はひとつもありません。

ー続くー

 

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