深夜2時、コンビニの駐車場に1台の古びたワゴン車がゆっくりとすべり込む。
それまで退屈そうにしていた若い男性アルバイト店員は、車から降り立った中年の男を目にするや否や奥の控え室に駆け込んだ。
男が自動ドアから入りかけたときにはすでに、先ほどの店員と共に奥から呼び出されたもうひとりの男性店員が、それぞれのレジスターの前に毅然とした態度で身構えていた。
「いらっしゃいませ!」というユニゾンで発せられた大きな声に、男は一瞬たじろいだかに見えたが、すぐに気を取り直して、入り口横にあるコピー機に張り付く。二人の男性店員は男の背中から目を離さない。その様子が正面にあるガラスに映って男にもはっきり見えていた。
男は手にしていた大きな紙封筒をコピー機の上に置くと、尻ポケットから財布を取り出し中をまさぐった。しばらくそのままじっとしていたが、突然意を決したようにふり返ると、近くのレジの前に歩み寄った。
心なしか店員の顔が引きつる。
男は、不自然な笑みを浮かべながら、千円札を一枚差し出した。
「コピーしたいんだけど、両替してもらえますか?」
店員は、緊張した顔つきのままレジを開いて、男に小銭を渡した。
この”男”とは、もちろん僕のことです。
ステンドグラスのデザインが完成するのは、深夜または明け方になることがほとんどで、それからコンビニへカラーコピーをしに行くのが常です。そこで前述のような光景を引き起こすことも多々あるわけです。
僕の風体はというと、ぼさぼさの髪とひげ、そのうえ疲れた顔に汚れた作業着 、それがサンダルか長靴を履いて、年代物の車で人気のない時間にやってくるのですから、店員達の反応は当然のことと思います。
「人を見かけで判断するな」と言うのは正しい戒めですが、見かけでかなりのことがわかるのも事実です。コンビニの店員達は僕を見て即座に次のことを推測したはずです。「金がない、生活が乱れている、無職あるいは何か変わった仕事をしている」どれも当たっています。そして昨今は、その種の人間が物騒な行動に及ぶことが珍しくない世の中になってしまいました。
今年の春、高校三年生になったばかりの長女がちょっとした事件を起こしたため、夫婦揃って学校へ呼び出されるということがありました。担任の先生が言うには、長女が友達数人と一緒に髪の毛を茶色に染めたというのです。 僕も妻も毎日長女と顔を突き合わせていながら、そのことに全く気がつきませんでした。家に帰ってから長女の髪を確認しましたが、元々茶色っぽい髪が見る角度によってより明るく見えるという程度でした。親でさえ見過ごしていた子供の僅かな変化に気がついた担任の観察眼には脱帽するよりありません。
僕の家系には、巻き毛で茶色い髪の人間が多く、僕もそうでしたから娘達に遺伝したようです。長女の生まれながらの茶髪は、小学校でも中学校でも指摘されることがありましたが、高校では検査の度に注意されて、その都度生まれつきだとか部活で日に焼けたせいだとか言い訳をしていたとのことです。髪を染めたのは、どうせまた注意されるんだしと、ちょっとやけになったからだそうです。
このとき担任から僕達夫婦が初めて聞かされたのは「ジゲチャトウロク」という言葉でした。漢字にすると「地毛茶登録」で、つまり長女の通う高校では、地毛の茶色い子は入学時に 登録することになっていて、長女はその手続きをしていないから検査の度に注意されるのだということでした。
なるほどそういうことでしたか。何故僕達夫婦がその制度を知らずに2年間も過ごしてしまったのかは不明ですが、親の不注意で子供を苦しめたのは間違いのないことですから、自身の不徳を恥じるべきであると思いました。
この件の処分に関して、学校からは長女の髪を黒く染めなおすようにという指導がありました。ん?ここでちょっと疑問が・・・。
髪を染めたということで注意されたと思っていたのに、その過ちを正すためにもう一度同じことをやれと・・・?
そのあと、学校の先生方と僕達夫婦の考えには、大きな隔たりがあることがわかりました。
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1ヶ月ほど前のことですが、いつも作品展の会場として利用させていただいている「ウッドいのうえ」さんに、ふらりと立ち寄りました。
店主の井上高夫さんは、店の品揃えからも推測できますが、様々なことにこだわりを持って生きておられる方です。その井上さんが開口一番、「最近ガルブレイスを読んでるのだけど、いいこと書いてるよね」と言うのです。
”ガルブレイス”について、僕の頭の中を探ってみても、アメリカ政府のお抱え経済学者のようなイメージしかなく、なんか昔ベストセラーになった本があったよなあ~と言う程度の知識でした。人に薦められた本は必ず読むことにしていますので、早速図書館へ行ってガルブレイスの著作を3冊借りてきました。たくさんある中から適当に選んだ3冊ですから、これでガルブレイスのすべてがわかるはずもありませんが、少しは理解できた気がします。
ジョン・ケネス・ガルブレイスはカナダ出身の経済学者で、2006年に97歳で亡くなっています。ルーズベルト、トルーマン、ケネディー、ジョンソンの各政権に仕え、その後もアメリカ政府の施策に寄与しています。日本との関係も深く、1978年の著作「不確実性の時代」がベストセラーになりました。
僕が読んだ本は、「実際性の時代」(1991)、「よい世の中」(1996)、「日本経済への最後の警告」(2002)の3冊ですが、印象に残ったのはロナルド・レーガン政権(1981~89)への痛烈な批判です。ガルブレイスは、レーガン大統領が推し進めたいわゆる”レーガノミックス”と総称される一連の経済政策について、「需要より供給を優先し大企業や富裕階級の利益を擁護したが、結果は大失敗だった」としています。
先週は、アフリカ系アメリカ人として初めて大統領選挙に当選したバラック・オバマ氏のニュースがメディアを賑わしました。そこで思い出したのですが、昔見た映画でレーガンが準主役で出演している「カンサス騎兵隊」(原題:Santa fe trail、1940年作)という作品があります。レーガンが出演した映画19本の中ではベストと言われてますが、当時の大スター、エロール・フリンが主役であるにもかかわらず、ほとんど評価されていません。これがちょっと奇妙な映画でして、オバマ氏から連想した理由があります。
映画の中で描かれているのは、「ジョン・ブラウンの乱」という1858年にアメリカで実際に起こった事件です。ジョン・ブラウンは、そのころまだ存続していた(南北戦争の前ですから)奴隷制度の廃止を訴えて立ち上がりました。これを国賊として成敗しようというのがカンサス騎兵隊に属するエロール・フリンとその親友レーガンたちなのです。もしかすると映画の最後の方になったらレーガンたちがブラウンに味方して奴隷制廃止のために戦うことになるのかもしれないと思って見ていたら、お気楽な恋愛模様など織り交ぜつつちんたらと進行し、最後はブラウンが捕まって絞首刑になるシーンで終わりました。なんじゃこれ?
監督は、後に「カサブランカ」でアカデミー賞を獲得するマイケル・カーティスなんだけどな?
ガルブレイスは触れていませんが、レーガンの大きな失策と言われていることがもうひとつあります。ちょうどレーガンが就任した1981年に初めて症例報告があったAIDS(エイズ)に関する対策です。レーガン政権はエイズの重大性を理解せず、なんら有効な対策をたてることもなく放置したために、その政権期間8年間で爆発的に広がる結果となりました。
1980年代アメリカの同性愛者たちを描いた戯曲に「エンジェルス・イン・アメリカ」がありますが、テレビ映画化(2003年)もされています。こちらは「カンサス騎兵隊」と違ってたいへんな評判となり、2年前に日本でも放映されましたからご存知の方も多いでしょう。
エミー賞、ピューリッツアー賞、トニー賞などを独占し、文句なしの名作です。この作品の中でも度々レーガンの悪口が出てきて、現代アメリカ人がレーガンの時代をどう捉えているのかを理解する参考になります。また神の存在について、エンジェル(天使)の役割について考えながら、自分の人生を振り返るきっかけにもなると思います。
1980年代の自分は何をしていただろうか? ちょっと無理やり感はありますが、僕もエンジェルに関わっていました。そのころはまだ東京にいて、学校で教える傍ら、色々な工房からの注文でガラスに絵を描いていました。それが何故か天使の図柄が多くて、かなりの数を描いたと思います。
どっかに写真はなかったかな?といたるところひっくり返して、あった、ありました!
2点だけですが、ご覧ください。
絵付けの部分しか渡されていないので、これらのガラス片が現在どこにどんな形で納められているのか全く分かりません。こういう仕事の仕方は良くないと気がついて、数年でやめました。
その後、日本もアメリカも好景気の時代を経て現在の悲惨な状況を迎えているわけですが、ガルブレイスはレーガンの時代からすべてを予見していて、度々警告を発していました。
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